個人利用では、NASとクラウドどっちがおすすめ?5つの観点で解説

今回の記事では、個人利用を想定した時にNASとクラウドのどちらがおすすめなのかについて解説します。

結論

個人利用の方には、絶対にクラウドストレージ(特に買い切り型だとなお良い)をおすすめします。NASは「自分専用のクラウド」として魅力的ですが、実際に運用してみると、管理の手間やコスト、セキュリティリスクがメリットを大きく上回ってしまうことが多いからです。

NASはセキュリティ管理が大変すぎる

NASのセキュリティ管理は非常に大変です。NASは「インターネットに接続されたサーバ」であるため、PCやスマホと同じように、常にOSやアプリのアップデートを行い、セキュリティ対策を講じる必要があります。

最近は、NASを狙ったランサムウェアなどのサイバー攻撃も急増しており、以下のような高度な管理が個人にも求められます。

  • ファームウェア(OS)の定期的な更新
  • 複雑なパスワードの管理と二段階認証の設定
  • ファイアウォールの設定や不要なポートの閉鎖
  • 外部からの不正アクセス監視

もし脆弱性を放置して攻撃を受けた場合、保存していた大切な写真やデータが全て暗号化され、二度と開けなくなるリスクがあります。

NASを狙ったサイバー攻撃

「自分は有名人でも大企業でもないから、攻撃なんてされないだろう」と考えるのは大きな間違いです。インターネット上では、セキュリティの甘いデバイスや既知の脆弱性を持つデバイスを探し回っています。

実際に、以下のような大規模な攻撃事例が発生しています。

QNAP製NASを襲った「DeadBolt(デッドボルト)」の衝撃

2022年頃、世界中でQNAP製のNASを標的としたランサムウェア「DeadBolt」が猛威を振るいました。ある日突然、NASのログイン画面がハイジャックされ、「あなたのファイルはすべて暗号化されました」という脅迫メッセージに書き換えられてしまったのです。

  • 手口: ユーザーが設定したパスワードの強弱に関係なく、NASのOSやアプリの未知の脆弱性(ゼロデイ脆弱性)を突いて侵入。
  • 被害: 写真、動画、書類など全てのデータが独自の形式(.deadbolt)に暗号化され、開けなくなる。
  • 要求: 復号キーと引き換えに、約10万円〜数十万円相当のビットコインを要求される。

この攻撃の恐ろしい点は、「ユーザー側で基本的なセキュリティ対策をしていても被害に遭った」という点です。メーカーがパッチ(修正プログラム)を配布する前の脆弱性を突かれたため、個人レベルでの防御はほぼ不可能でした。

Synologyやその他NASを狙う「eCh0raix」

Synologyなどの他メーカーのNASも例外ではありません。「eCh0raix」と呼ばれるランサムウェアは、脆弱性の悪用だけでなく、弱いパスワードを総当たり攻撃(ブルートフォース)で突破する手法も使います。

このように、NASをインターネットに公開して便利に使おうとすると、常に世界中のハッカー集団と攻防を繰り広げることになります。「セキュリティのプロが24時間監視しているクラウド」と「個人の片手間の管理」で、どちらが安全かは明白です。

NASは初期コストもランニングコストも高すぎる

NASは、「一度高い初期コストを支払ってしまえば、永久に無料で利用できる」というのを謳い文句にして販売されていますが、実際は全くそんなことはありません。HDDは消耗品であり、NAS本体も数年で性能不足や故障が発生します。さらに、24時間365日稼働させるための電気代もかかります。

一般的な2TBの容量で、5年間運用した場合の費用を具体的に見積もってみました。

NAS(2TB RAID1構成)の5年間コスト試算

  • NAS本体(エントリーモデル): 約33,000円
  • HDD(2TB x 2台): 約28,000円(1.4万円 x 2)
  • 電気代(5年間): 約23,000円(約4,600円/年)
  • 合計: 約84,000円

一方、買い切り型のクラウドストレージ「pCloud」の2TBプランであれば、約60,000円($399)で済みます(セール時はさらに安くなり、4万円台になることも)。HDDの故障リスクや買い替えの手間を考えると、コスト面でもクラウドの方が優秀です。

ネットワーク環境への依存と複雑な設定が必須

NASは、家庭内用の小型サーバのため、家庭内のネットワーク環境に強く依存しています。
家庭内ネットワーク(Wi-Fi)に繋がったPCやスマホからアクセスするだけであれば大きな問題はありませんが、外出先から便利にリモートアクセスをするとなると、一気にハードルが上がります。

具体的には、以下のようなネットワークの知識や環境が必要です。

  1. 固定IPアドレスまたはDDNSの設定: 自宅のグローバルIPアドレスが変わってもアクセスできるようにする設定。
  2. ポート開放: ルーターの設定変更が必要ですが、セキュリティリスクが高まります。
  3. IPv6 (v6プラスなど) 環境の制約: 最近主流の高速回線(IPv4 over IPv6)では、自由にポート開放ができないことが多く、外部から直接NASに接続するのが極めて困難です。

メーカー提供の簡易接続機能(QuickConnectなど)もありますが、海外の中継サーバを経由することが多く、通信速度が極端に遅くなったり、安定しなかったりすることがあります。

Nuro光には特に注意

特に注意が必要なのが、人気の高速回線「Nuro光」を利用している場合です。
Nuro光は現在、接続方式を従来の方式から「MAP-E(マップ・イー)」という新しい規格へ順次切り替えています。

このMAP-E環境下では、「ポート開放が事実上不可能(または極めて制限される)」という致命的な問題が発生します。

  • 仕組み: 1つのグローバルIPアドレスを複数のユーザーで共有するため、ユーザー1人あたりに割り当てられる「使えるポート番号」が極端に制限されます(例: 使えるポートが数百個だけ、しかも飛び飛びの番号など)。
  • 影響: NASのリモートアクセスで標準的に使われる「80番(HTTP)」や「443番(HTTPS)」、VPNで使う「500番/4500番」などが、自分には割り当てられていない可能性が非常に高いです。

結果として、「Nuro光に変えたら、急に外出先からNASに繋がらなくなった」「設定画面でポート開放エラーが消えない」というトラブルが続出しています。これを回避するには、IPv6対応のVPNを構築するなど、ネットワークエンジニアレベルの高度な知識が必要となり、一般ユーザーにはほぼ対応不可能です。

データ消失リスクが極めて高い

「RAID(複数のHDDにデータを分散保存する技術)を使っているから安全」と考えるのは危険です。多くの人はNASをHDD 2台でRAID 1(ミラーリング)運用しようとするはずですが、それでもデータ消失リスクはゼロではありません。

  • 同時故障のリスク: 同じ時期に買ったHDDは同じ時期に壊れる傾向があります。1台が壊れて、新しいHDDに入れ替えてデータを復元(リビルド)している最中に、負荷に耐えきれずもう1台も壊れて全データ消失、というケースは珍しくありません。
  • 人為的ミスや災害: 操作ミスでの削除、落雷による過電流、地震での転倒、火災など、物理的な損害にはRAIDは無力です。
  • ランサムウェア: ウイルスに感染すれば、RAIDで二重化していても、両方のデータが同時に暗号化されてしまいます。

NASのデータを守るためには、さらに「外付けHDDへのバックアップ」や「クラウドへのバックアップ」が必要となり、結局コストと手間がさらに増えてしまいます。

たまにアクセスできなくなる

特にリモートアクセスは、いざという時に使えなくなることが多いです。

  • 自宅のルーターがフリーズしていて繋がらない。
  • 自宅が停電していてNASが落ちている。
  • メーカーの中継サーバがメンテナンス中で繋がらない。

「今すぐあの資料が見たい」「旅行先で写真をアップロードしたい」という重要なタイミングで接続できないストレスは計り知れません。その点、Google DriveやpCloudなどの大手クラウドサービスは、世界規模でサーバが分散管理されており、99.9%以上の稼働率が保証されています。

NASの方が良いユースケース

これまで基本的にはクラウドの方がおすすめということを述べてきましたが、一部のユースケースではNASの方が優れています。

ビジネス利用

第三者が運営するクラウドストレージにデータを保存できないケースでは、NASの方が良いです。
具体的には、以下のような場合です。

  • 法的・契約上の制約: 顧客データや機密情報を「自社管理下のサーバ」に置くことが契約で義務付けられている場合。
  • 超大容量データの編集: 映像制作会社などで、数TB級の動画素材を複数人で同時に編集する場合、クラウド経由では回線速度がボトルネックになります。ローカルネットワーク(10GbEなど)で接続されたNASなら、SSD並みの速度で快適に作業できます。

プライベートな動画やファイルの保存

クラウドストレージにはあまり保存できないプライベートなデータを保存し、便利に利用するケースもNASがおすすめです。

Google DriveやOneDriveなどのクラウドサービスは、アップロードされたファイルをAIやシステムが自動的にスキャンしています。そのため、「著作権的にグレーなファイル」や「成人向けコンテンツ」などを保存していると、利用規約違反とみなされ、ある日突然アカウントごと削除(BAN)されるリスクがあります。

  • DVD/BDからリッピングしたデータ: 私的利用の範囲であっても、クラウド側が「違法コピー」と誤検知する可能性があります。
  • 個人的なコレクション: 他人に見られたくない、またはクラウドの検閲に引っかかりそうなデータ。

こうしたデータは、誰にも監視されない「自分だけのハードディスク」であるNASに保存し、自宅内からこっそり楽しむのが正解です。

まとめ

以上の理由から、個人でのデータ管理においてNASは「ロマンはあるが、実用性とコスパは悪い」と言わざるを得ません。専門的な知識があり、サーバ管理自体を趣味として楽しめる人以外は、セキュリティ、コスト、利便性のすべてにおいて勝るクラウドストレージ(特にpCloudのような買い切り型)を選ぶのが賢い選択です。

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