今回、NASと買い切りプランのあるクラウドストレージサービスであるpCloudをさまざまな観点から比較してみます。
pCloudの概要
pCloudは、Google Drive や onedrive のようなクラウドストレージサービスを提供しており、「専用のアプリやウェブサイトから簡単にデータをアップロード・ダウンロードできるクラウドストレージサービスです。
pCloudの特徴としては、業界でも珍しい「買い切り型(ライフタイムプラン)」を提供していることが挙げられます。具体的には、一般的なクラウドストレージが月額や年額のサブスクリプション制であるのに対し、pCloudは一度料金を支払えば、その後は追加費用なしで永続的に利用することができます。
また、「pCloud Drive」という仮想ドライブ機能を持っており、PCの空き容量を消費せずに、まるで外付けHDDをつないでいるかのようにファイルを扱える点も大きなメリットです。そのため、ランニングコストを抑えつつ、手軽に大容量ストレージを確保したいユーザーに最適です。
NASの概要
NASとは、「Network Attached Storage(ネットワークアタッチトストレージ)」の略で、家庭やオフィスのネットワークに直接接続して利用するストレージ機器です。パソコンやスマートフォン、タブレットなど複数のデバイスから、ネットワーク経由でファイルの保存や共有ができるのが特徴です。多くの場合、専用のHDDケースやRAID機能を搭載しており、データの冗長性やバックアップも強化されています。
また、NASは独自のアプリやウェブインターフェースを備えているため、ファイル管理、メディアサーバ機能、リモートアクセスなど様々な機能を追加で利用することが可能です。設置やメンテナンスは若干手間がかかりますが、高い柔軟性と拡張性を持っています。
実質的には完全自分専用のクラウドストレージのようなイメージとなります。
料金
はじめに、pCloudとNASの料金を計算します。
今回は、2TB・10TBの時について、5年間運用した場合を想定して試算してみます。
試算の前提条件
公平な比較を行うため、以下の条件で計算します。
- 為替レート: 1ドル = 150円
- NAS構成:
- 本体: 家庭用エントリーモデル(Synology DS223jクラス / 約33,000円)
- HDD: NAS用高耐久モデル(WD Red Plus等)を2台使用し、RAID1(ミラーリング)を構成
- 電気代: 31円/kWh、平均消費電力17Wで24時間稼働(年間約4,600円)
- pCloud: 買い切り(Lifetime)プランの価格
- 期間: 5年間(NASのHDD寿命目安)
2TB
まずは一般的な容量である2TBでの比較です。
| 項目 | pCloud (2TB) | NAS (2TB) |
|---|---|---|
| 初期費用 | $399 (約60,000円) ※セール時 $279 (約42,000円) |
約61,000円 (本体3.3万 + HDD1.4万×2) |
| 電気代(5年) | 0円 | 約23,000円 |
| 5年総額 | 約60,000円 (セール時 約42,000円) |
約84,000円 |
結果としては、2TBの場合、pCloudの方が圧倒的に安くなります。
初期費用の時点でpCloud(特にセール時)が安く、さらにNASは電気代が掛かり続けるため、長く使うほどpCloudのコスパが際立ちます。
10TB
次に、大容量の10TBでの比較です。
| 項目 | pCloud (10TB) | NAS (10TB) |
|---|---|---|
| 初期費用 | $1,190 (約178,500円) ※セール時 $890 (約133,500円) |
約123,000円 (本体3.3万 + HDD4.5万×2) |
| 電気代(5年) | 0円 | 約23,000円 |
| 5年総額 | 約178,500円 (セール時 約133,500円) |
約146,000円 |
結果としては、10TBの場合、定価ベースではNASの方が安くなるケースがあります。
大容量HDDは高価ですが、pCloudの10TBプランも高額なためです。
ただし、pCloudのセール時価格(約13.3万円)であれば、NASの総額(約14.6万円)よりも安くなるため、大容量プランを狙うならセール時期を待つのが賢い選択と言えます。
また、NASは5年〜でHDDの故障・交換リスクが高まるため、6年目以降の維持費を含めると、やはり買い切りのpCloudに軍配が上がる可能性が高いでしょう。
基本的には、HDDが故障する前に一定の期間ごとにHDDの買い換えや、NAS本体のリプレースが必要になります。そのため、「初期費用+電気代」だけでなく、HDDの交換コストやNAS本体の更新コストも長期的には考慮する必要があります。機器の故障や技術進化による買い替えが発生すれば、そのたびに追加費用がかかることになるため、実際にはNASの総コストはさらに増加します。
一方、pCloudのようなクラウドストレージは、サーバやHDDの管理・保守費用が不要で、買い切りプランなら追加料金も発生しません。そのため、「手間・維持費・突発的な追加出費」を最小化したいならpCloudが有利と言えるでしょう。
速度
pCloudとNASの速度について詳しく比較します。
pCloud
pCloudは、複数人でサーバを共有しているため、基本的にはNASと比較してアップロード・ダウンロード速度は遅くなります。どんなに早くても、100MB/s程度の転送速度が限界となります。
特に、インターネット回線の速度に大きく依存するため、光回線などの高速な環境でないと本来のパフォーマンスを発揮しづらい点には注意が必要です。
NAS
家庭用NASは自宅のネットワークに直結して運用するため、家庭内ネットワーク(LAN)からの利用であれば非常に高速です。
一般的なギガビットイーサネット(1GbE)接続であれば、実測で100MB/s〜120MB/s程度の転送速度が期待でき、大容量ファイルの編集やバックアップも快適に行えます。
一方で、外出先などのリモート環境からのアクセスは、LAN接続に比べてかなり低速になります。
その最大の理由は、自宅のインターネット回線の「上り(アップロード)速度」がボトルネックになるためです。外出先からNASのデータをダウンロードしようとすると、自宅側ではデータを「アップロード」して送り出す形になるため、一般的な家庭用回線ではここが速度の限界点となります。
また、セキュリティ確保のためのVPN接続やSSL暗号化通信の処理(オーバーヘッド)が加わることも、速度低下の一因となります。
さらに、最近の家庭用ネットワークは、外部からのリモート接続ができないような設定になっていることがあります。その場合は、NASの提供元のサーバを経由して接続することになるため、転送速度がさらに遅くなったり、通信の安定性が低下したりすることがあります。
結果として、自宅LAN内で使う分には高速なNASでも、外出先などから使う場合はpCloudなどのクラウドストレージのほうが快適に感じるシーンも多いです。
使いやすさ
pCloudとNASの使いやすさについて比較します。
pCloud
pCloudは、アカウントを作成するだけですぐに利用を開始できます。
専用アプリ(Windows/Mac/iOS/Android)をインストールすれば、自動バックアップやファイル同期も簡単に設定可能です。特に「pCloud Drive」機能を使えば、パソコンのローカルドライブと同じ感覚でファイルをドラッグ&ドロップするだけで保存・管理ができるため、特別な知識がなくても直感的に使いこなせます。
また、スマホアプリの写真自動アップロード機能も優秀で、撮った写真を全自動でクラウドに保存してくれるため、写真整理の手間が大幅に省けます。
NAS
NASは、利用開始までに機器の設置、初期設定(OSインストール、RAID構築、ユーザー作成など)が必要で、ある程度のITリテラシーが求められます。
一度設定してしまえば、専用アプリでスマホから写真を見たり、PCのデータをバックアップしたりと便利に使えますが、トラブル時の対応やファームウェアの更新などは自分で行う必要があります。
外部からアクセスする場合も、QuickConnectのような簡易接続機能はあるものの、本格的に使うにはポート開放やVPNの設定など、ネットワークの知識が必要になる場面も少なくありません。
「とにかく手軽に使いたい」という人にはハードルが高く感じられるでしょう。
セキュリティ
実はここがNASの最大のデメリットです。
NAS
NASは、言わば「インターネットに常時接続された自宅内の小さなサーバ」です。
そのため、適切なセキュリティ対策(ファームウェアの更新、強固なパスワード設定、不要なポートの閉鎖、ファイアウォールの設定など)をユーザー自身が継続的に行わなければなりません。もし設定に不備があったり、脆弱性を放置していたりすると、ランサムウェアの攻撃対象となり、大切なデータを暗号化されて身代金を要求されるリスクがあります。
「自分は大丈夫」と思っていても、NASのOSに未知の脆弱性が発見された場合、個人の対応では防ぎきれないケースもあります。
pCloud
pCloudのようなクラウドストレージは、セキュリティのプロフェッショナルが24時間体制でサーバを監視・管理しています。通信経路の暗号化(TLS/SSL)はもちろん、保存データは複数のサーバに分散して保存(冗長化)されるため、データ消失のリスクは極めて低いです。
また、pCloudはスイスの厳しいプライバシー法に準拠しており、オプションの「pCloud Encryption」を使えば、クライアント側でデータを暗号化してからアップロードすることも可能です(ゼロナレッジプライバシー)。
これにより、サービス運営側ですら中身を見ることができない最強クラスのセキュリティを実現できます。ユーザーは「強力なパスワードを設定する」「二段階認証を有効にする」といった基本的な対策を行うだけで、企業レベルの堅牢なセキュリティを享受できるのが大きなメリットです。
動画再生
保存した動画をスマホやタブレットで再生する場合の快適さについて比較します。
NAS
自宅内(LAN環境)であればスムーズに再生できることが多いですが、外出先からの再生ではトラブルが頻発しがちです。
主な理由として、トランスコード機能の限界があります。エントリーモデルのNAS(DS223jなど)はCPU性能が低く、動画形式をスマホ向けにリアルタイム変換(トランスコード)する処理が追いつかないため、再生自体ができないケースがある。結果として、「せっかく保存したのに、外出先で見ようとしたらカクカクして見られなかった」という事態になりやすいのが実情です。
また、そもそもデータがHDDに保存されているため、読み書き速度やアクセス時の遅延が発生しやすく、特に複数人で同時利用した場合や大きなファイルを扱う場合にはパフォーマンスが大きく低下することがあります。さらに、HDD自体も経年劣化による故障リスクが避けられず、万が一不具合が発生した際には動画が正常に再生できなくなる場合もあります。
pCloud
pCloudは、動画プレーヤー機能が非常に充実しています。アップロードした動画は、サーバ側でストリーミング再生に適した形式に自動的に最適化されます。そのため、回線速度に合わせて画質を調整しながらスムーズに再生することが可能です。
また、専用アプリにはオーディオプレーヤー機能も内蔵されており、プレイリスト作成やバックグラウンド再生にも対応しています。
「保存した動画や音楽を、いつでもどこでも快適に楽しむ」という点においては、強力なサーバパワーを使えるpCloudの方が圧倒的に有利です。
まとめ
このように、ローカルネットワーク環境下において、動画データを管理するなどの特殊な用途があればNASもおすすめできますが、ほとんどのユーザによってはNASを利用するメリットはほとんどないと言えます。

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